大企業では成しえない岩佐琢磨さんの理想とは

「ハードウェア×インターネット」で「0(ゼロ)」から「1」を創り出す

PCやネットゲームにハマる学生時代 ネット上の友達はみんな大人だった

―学生時代はどのように過ごされていましたか?

 

中学3年生くらいのころからPCにハマりだして、高校時代もずっとPCを触るのが好きでした。当時はインターネットのサービスが確立する前でしたが、学校から帰っては「草の根BBS」という掲示板でチャットをしたり、またはオンラインゲームをしたりということに熱中していました。
今でこそ中高生もインターネットを使いこなしていますが、当時はPCやインターネットを使っている中高生というのはレアな存在で、ネット上の知り合いはみんな成人した大人でした。だから、大学進学に際しても、ネットで知り合う大人から、大学ってどういうものかとか、大学生活の経験談などを聞けたので入学前に大学というもののイメージができたのはよかったですね。その時に、どこに進学するにしても、決められた学問だけでなく、自分のやりたいことをやっていくのが大切だ、ということにも気づかせてもらいました。

 

―実際の大学生活はどうでしたか?

 

大学時代はアルバイトでゲームライターをしていたんです。大学2回生から大学院修了まで続けていました。私がフライトシミュレーションゲームのホームページを作って記事を掲載していたところ、雑誌の編集部の方の目に留まった、というのがきっかけです。その当時は、まずホームページを作っている人が少なかったということ、更にフライトシミュレーションゲームのページはほとんど誰もやっていなかったというのが大きかったと思います。
学業のほうではCV(=コンピュータヴィジョン)の研究をしていました。自動運転やロボットなどにも使われている技術で、カメラやセンサーを使ってモノの距離や速度などを画像から推測するという技術で、今まさに旬の技術と言えます。

起業して大企業ではできなかった新しいことをやれるようになった

―大学院修了後は松下電器産業(現:パナソニック)へ入社されます。

 

私が就職した2003年当時、すでにインターネットは当たり前のビジネスになっていました。
さっき言ったような、フライトシミュレーションゲームのホームページを作ったこともその1つですが、誰もやっていない新しいもの、「0(ゼロ)」から「1」を創り出すことが私の得意とするところです。ですので、就職する際にも、従来の、パソコンの中だけのインターネットで勝負しても面白くないと思っていました。その時から、今の当社製品の特徴でもある「ハードウェア×インターネット」で仕事がしたいという気持ちがあり、その観点からやりたいことに一番近かった大手家電メーカーであるパナソニックへの入社を決めました。
パナソニックではさまざまな開発にチャレンジさせてもらえたので、良い経験を積むことができ、非常に楽しく仕事ができていました。しかしながら、だんだん大企業の難しさを感じるようになりました。大企業はみんなが欲しいと思うものを作らなければならないので、どこかですでに試みられたものを、大きな資本力と人員を使って改良、大量生産するというのが基本的なやり方です。それが、私の理想とズレてきてしまい、独立してCerevoを立ち上げるに至ったのです。

変形型ロボットプロジェクター『Tipron』   アニメ作品とコラボしたスマートトイ『DOMINATOR』 音声認識・物体認識機能を備えた『1/8タチコマ』

―独立してパナソニック時代との違いは?

 

独立した今は、「0」から「1」にする仕事ができて楽しいです。反面、大企業のように大量のお金、人を動かすということはできなくなったので、もちろん難しさもありますが。
あとは、日本のハードウェアスタートアップ※は海外諸国に比べ遅れていると言われています。ですから今は、競合になりうる相手とも手をとって、業界全体を盛り上げていくことが必要かな、と考えています。実際に私たちもハードウェアスタートアップの支援を行っています。若い世代の人にはどんどん業界に入ってきてもらいたいですね。

※製造を要するハードウェア業界での起業

 

―今後、作ってみたいものはなんですか?

 

将来的には人体を拡張できるものを作りたい、と思っています。装着することで人の生活を劇的に変えるようなデバイスです。こんな言い方をすると大げさに聞こえるかもしれませんが、皆さんが持っているメガネも、0.1の視力を1.0に「拡張」しますよね。これも、言い方を変えれば「視力を10倍に拡張するデバイス」だと思うんです。それに似たようなことはほかのものでも可能なはず。
例えばそれが、「第三の手」なのか、「背後が見える眼」なのかはまだわかりませんが、そういった人体拡張デバイスを、インターネットとハードウェアの技術を活かして実現したいです。また、将来的には、それが世界中の人々がメガネをかけるように、世界の隅々まで当たり前のように広がっていったら面白いと思いますね。

エンジニアをめざす高校生へのメッセージ

「好きなこと」を自分で見つけよう

誰かに言われるのではなく、自分で見つけた「好きなこと」を持つようにしましょう。なぜなら、あなたが興味をもっているものの中にも、必ずエンジニアリングは関係しているからです。自分ならではの「好きな こと」を軸にユニークな発想ができる人こそが、エンジニアとして活躍できる人だと思います。

株式会社Cerevo
代表取締役CEO
岩佐 琢磨さん

 

1978年、京都府出身。立命館大学大学院理工学研究科修了。2003年、松下電器産業(現 パナソニック)入社。2007年パナソニックを退職し株式会社Cerevoを設立。インターネットとハードウェアを組み合わせた製品の企画・開発を行い、世界60ヵ国以上で販売している。