日本のため、多くの保育問題に取り組む駒崎弘樹さん
新しいあたりまえを、すべての親子に。
信念を持った実行力で、現状を打破し、時代を変革!
2005年、日本で初めて病児保育問題解決に向けて立ち上がったのが皮切り。以後、待機児童問題、ひとり親問題、障害児保育問題などの社会問題や保育園の働き方改革に取り組み、すべての家族に笑顔を届けるべく活動を続ける認定NPO法人フローレンス。自身も保育士資格を取得し、時代を動かす代表理事、駒崎弘樹氏に話を伺った。
「積極的に挑戦する姿勢」こそが大事
-近年の保育に関わるあらゆる問題解決に尽力されていらっしゃいますが、ご自身はどのようなお子さんでしたか?
幼少期の想い出は、保育園の友達を誘って3人で保育園を脱走したというエピソードが記憶に残っています。理由は覚えていませんが、何か、冒険でもしたかったのでしょうね。現在保育園を経営する立場としては、困った子どもでしたね(笑)。
高校時代は、千葉県のその地域では進学校に通っていました。みな、東京大学を目指すような学校で、当時の私には非常に窮屈で、居心地の良くない印象が残っています。ちょうど地下鉄サリン事件が勃発して、高学歴の多くの容疑者が毒ガスをまき、世間を騒がせました。このまま大学を目指して勉強を続けていいのか悩んだ時期です。そんな私を見かねた姉が、「そんな狭いレールに縛られていないで、大きな世界を見てきなよ」と、アメリカ留学を勧めてくれました。
1年間の留学生活で、アメリカの多様な価値観を体感しました。また成功する、失敗するに関わらず「積極的に挑戦する姿勢」を褒めてくれる土壌は日本では味わえませんでしたので、とても感激しました。日本では質問したり、ましてや意見したりすると「調子に乗るな」などと言われる雰囲気がありましたが、アメリカでは逆に、意見を言わないと「お前は何を考えているのかわからない」と言われてしまいます。そうした風潮はとても気持ちよく、居心地がよかったです。
-フローレンス設立のきっかけを教えてくだい。
留学時の滞在先では日本のことをよく聞かれました。いつしか日本を背負った気持ちになり、日本のことを学び、祖国日本を意識しました。外国から見た当時の日本は、かつての経済成長期から衰え、崩れていくように感じ、悲しく辛く、「日本のために何かやりたい」という気持ちに駆られました。帰国して大学に入学し、学生時代にITバブルの波に乗って起業しました。仕事は面白かったですし、資金も稼げたのですが「これって日本のためになっているの?」と考えるようになり、「もっと人の役に立てる仕事はないか?」と熟考して、企業経営から退き、NPOを立ち上げたのです。
働く母の、まさに背中を見て育つ
-なぜ子育て問題へ特化されたのですか?
私が幼い頃、母は競馬新聞の配達の仕事をしており、大きな新聞の束をバイクに積んで、私を背中におぶりながら育ててくれました。働く母親の、まさに背中を見て育ちましたので、働くお母さんたちのフォローをするのは自然の流れでした。また母はベビーシッターの仕事もしていたのですが、子どもが熱を出した時に保育園ではあずかってもらえず、親が仕事を休んで面倒を見続けた結果、仕事をクビになってしまったという方の話を聞かせてくれました。その時、「これを解決しよう!」と思い立ち、今で言う病児保育問題に取り組んだのです。
-フローレンスの活動について教えてください。
フローレンスのキャッチフレーズは「新しいあたりまえを、すべての親子に。」です。「新しいあたりまえ」、つまり病児保育問題は、13年前は誰にも知られていなかったのですが、今では子育てをしている人はほぼ知っています。つまり「あたりまえ」の存在になったわけです。「小規模保育」も2010年に着手して、2015年には国をあげて取り組む政策となり、数年経てば普通にみなさんが知るところになると思います。そういう、「新しいあたりまえ」をどんどん作っていきたいと思っています。そして障害児を抱える家庭、ひとり親家庭など厳しい環境にあるすべての親子にとって、欠かせないインフラを作っていき、それを当然のものとしていきたいと考えています。
現在、生きるために医療的デバイスを身につける必要のある子ども、いわゆる医療的ケア児をあずけられるところはほぼ皆無なのですが、10年後には「医療的ケア児をあずかれない保育園なんてあったんだ」という風潮にしていきたいです。「今はないけれど、未来にとってはあたりまえ」というものを作り、多くの問題解決に取り組んでいきたいと思っています。
-駒崎さんも育休を取られたそうですね。
6歳の娘と4歳の息子がいますが、育休は2回取りました。代表である自分が育休を取るということは、自分がいなくても組織が動くように仕組みを作らなくてはなりません。日本全体の男性の育休取得率は3%ですが、フローレンスの男性の取得率は100%です。ぜひ男性も保育の仕事について欲しいですね。男性も輝ける世界です。世の中には男性と女性しかいませんので、小さい時から男性と女性に接して育つのが、小さな子どもたちにとってもいいことだと思います。
重い扉を開けた「保育園落ちた~」のブログ
-保育士の待遇改善が望まれていますが?
昨年、「保育園落ちた、日本死ね」というブログに日本全体が衝撃を受けましたが、それに対する私の解説記事が各方面で反響を呼びまして、500万人くらいの方に読まれました。それだけ多くの方の関心事項でした。当時、ブログの内容を与野党の政党にレクチャーに行きまして、「保育園が増やせないか」「増やすためには保育士を増やさないといけない」「保育士が増えないのは、待遇が低いからだ」ということをお伝えし、それで安倍政権が動いて2%・6000円の所得を増やしてくれ、経験者には4万円上乗せという、それまでにはない上がり方が実現しました。さらに東京都の小池知事にも同様に保育士の所得を上げていただくようにお願いしたところ2万円上がり、まだまだ十分ではないですが、かつてよりは随分待遇は改善されました。待機児童問題が注目され、タイミングも味方をしてくれましたが、「保育園落ちた~」のブログが重い扉を開けたといえます。今後も待遇改善に向けて努力を続けていきます。
子どもを健全に成長させていく素晴らしい仕事
-今後の保育業界はいかがでしょうか?
保育士の仕事は、これからさらに重要になっていくと思います。「子どものケアを行う、特に就学前の時期というのは『非認知能力』と言って、何かに対して集中する、内発的に何かに取り組むなど、幼児の心の土台を作る時期なので、そこにこそ人生のライフスキルを作る」と、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授も言っているように、その黄金時期に携われるのです。
一方で、それと同時に最近私たちは「保育ソーシャルワーク」と呼んでいますが、外国籍であるとか、ひとり親家族ですとか、低所得の家庭ですとかさまざまなバックグランドの家庭が増え、いろいろな親子がいる中で子どもをあずかるということのみならず、親に対して社会資源を提供していくことも必要になってきています。例えば困っている親御さんがいたら「役所の○○課が親切に相談に乗ってくれますよ」とか、子どもにアザがあった時は児童相談所に相談するだけでなく、継続的に親御さんの話を聞いていき何が課題なのかを話し合うという、親へのアプローチも非常に大事です。厳しい環境にある親子を支えていくことこそが必要になっていくのです。親子を支援することで、子どもを健全に成長させていくという素晴らしい仕事なのです。
高校生のみなさんには、一生懸命勉強してこの世界に飛び込んできてもらいたいと思います。
認定NPO法人フローレンス 代表理事
保育士
駒崎 弘樹さん
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、「地域の力によって病児保育問題を解決し、子育てと仕事を両立できる社会をつくりたい」と、2004年にNPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始。政府の要職も歴任し、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートする。