荒川弘也さんの思う、介護業界でのベンチャースピリットとは

レクリエーション介護士の数だけ介護の現場に笑顔が生まれる

ヒットサイトの制作で、介護の世界に

-現在、介護の世界で大変話題となっている「レクリエーション介護士」という資格を開発されましたが、今日までの経緯を教えてください。

 

私は高校卒業後、デザインの学校で勉強をし、デザインの仕事に従事しました。その後経験を積んで、1995年に独立してアルファクリエイト株式会社というデザイン会社を設立しました。グラフィックデザインはもとより、WEBサイトの制作も行い、一貫して社内で作成しました。その後WEBに関するコンサルティング業務も行ったのですが、「コンサルティングを行う会社が、自らヒットサイトを作れないのは問題ではないか?」と考え、試行錯誤を繰り返しながら実績作りを模索していました。
2010年頃でしたが、ちょうどその時期、90歳近くになった祖母の認知症が進行し、毎月1回程会いに行っていました。徐々に会話もおぼつかなくなっていくのですが、デイサービスで行ったレクリエーションのことだけは楽しそうに話してくれました。その時初めてデイサービスというサービスの内容を把握しました。祖母の記憶をたどって聞いてみると、カラオケに始まり、塗り絵や手作りカレンダー、折り紙工作などが楽しかったそうです。ある時、色を塗る状態の前の塗り絵を見てとても驚きました。忙しい合間にスタッフの方がきっとコピーにコピーを重ねたのでしょう、クオリティーとしては大変低いものでした。仮にもデザインの世界でプロとして活動している自分から見ると、「もう少し何とかできないものか」と思ったものです。
そしてプロのプライドをかけてデザインを施し、いろいろなレクリエーションツールを開発して、無料でダウンロードできるようにしました。折からの介護レクリエーションブームの波にも乗ったのですが、「介護レク広場」というサイトは半年で有名になり、ブッチギリで上位を占めて月に10万ダウンロードに達する程のヒットサイトに成長したのです。かねてよりヒットサイトを作りたいと考えていたので、予期せぬ方法で目的を達成できた瞬間でした。

1万7千人を超えたレクリエーション介護士2級

-そうした経験がきっかけとなり、介護の世界に入ったのですか。

 

はい。介護の現場ではレクリエーションが非常に求められていることを知りました。そこで「レクリエーション介護」について研究し、ある時はその成果について講演活動をし、また実際に施設を訪問してどのようにレクリエーションが行われているかなどの取材活動も繰り返し行いました。国家資格の介護福祉士資格取得の参考書にも、「介護にはレクリエーションが必要である」とは書いてありますが、実際に何をどのように行えばいいのかまでは詳しく書いてありません。そこで今まで温めておいたカリキュラムを作成し、東西の約200介護施設で試験運用してもらい、感想などの取材を重ねるうちに、事業展開をしていく手応えを得たのです。
そして2014年1月に一般社団法人日本アクティブコミュニティ協会を設立しました。「レクリエーション介護士2級」の資格取得試験は、同年9月にスタートさせ、今では1万7千人を超える方が資格を取得するまでに成長しました。
2016年には、私が制作した介護レクリエーションツールが、厚生労働省、経済産業省、農林水産省が共同で制作した「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集」に選ばれ、各方面から大変注目を集めています。

高齢者が生きがいを見出すお手伝い

-レクリエーション介護士について特徴を教えてください。

 

レクリエーション介護士は、介護現場に笑顔を広げる資格です。自分の趣味や特技を活かしながら、アイデアや着眼点を工夫して、利用者さんに喜ばれるレクリエーションを提供します。一人ひとりと向き合い、その人にあった最適なレクリエーションを提案することで、生きる喜びや楽しみを見出すお手伝いをします。同時に、介護が必要な高齢者と接するために知っておくべき基礎的な知識と、日々の生活が充実するために、コミュニケーションによって高齢者の心に寄り添える力を習得することができます。
介護の仕事は、非常に志の高い意義ある仕事ですが、とかく「しんどい」「つらい」「きつい」という部分がクローズアップされてしまうのも事実です。ですがレクリエーションに力を入れている施設では、スタッフ同士の結束力が強いうえ、とても前向きな人が多く、何より離職率が非常に低いという特徴があります。それは、「利用者さんを喜ばせるにはどうすればいいか」ということを常に考えているからだと思います。相手を喜ばせるということは、最後にはいい形となって自分に戻ってくるのだと思います。

 

-どういったレクリエーションが人気ですか。

 

認知症予防や機能向上を目的とした体操関連が人気です。中には左右で違う複雑な動きをするカリキュラムもありますので、頭の体操にもなるようです。ほかにも手品を学ぶ講座や、大手化粧品メーカーとタイアップしたメイクアップなども人気です。女性の利用者さんは、お化粧を施してもらうと外出したがるそうです。

ベンチャースピリットで、介護の世界を切り開く

-介護業界の人手不足は深刻で、待遇改善が強く望まれています。

 

高齢者の介護というものは、従来は各家庭で行われてきたものです。ですが超高齢社会を迎え、家庭だけでは支えきれず社会全体で高齢者のお世話をする時代になっています。
そうした背景のもと、介護の仕事は非常に重要な責務を果たしています。それはヒトの根源、つまり生命にも直接関わりを持つ仕事だからです。とても意義深く、尊い仕事だと思います。
一方で、まだまだ待遇が十分満たされているとはいえません。政府の働きかけで給与面が見直されてきてはいますが、これももっと改善されるべきだと思います。業務内容に見合った報酬が得られるよう、業界全体で努力を重ねていかねばなりません。ですが、待っているだけではなく、これからは介護業界、施設全体で収益構造を構築していくことも重要ではないかと考えています。いわばベンチャースピリットを掲げて、一人ひとりが起業家になるような志を持って介護の世界を切り開いていってもらいたいと思うのです。
レクリエーション介護士を取得している介護関連スタッフの方は、就職や転職の際にも有利だという話も聞いています。レクリエーションにも創意工夫を重ねて仕事に取り組んでいけば、明るい未来が見えて来るはずです。

 

-介護の世界を目指している高校生への応援メッセージをお願いします。

 

私の尊敬する大先輩に、自動車メーカーに勤務し、タイでの自社乗用車シェアを5年で約10倍にアップさせ、逆に国内では輸入外国車の年間販売台数800台を2年後には13,000台へと大躍進させた方がいます。その方は「会社を黒字にできなければ、原因はすべて自分の器のなさにある」が持論で、私も好きな言葉です。
自分ができないことを、環境や周囲のせいにして逃げて回るのは簡単ですけど、まずはひとつのことを信じて、ガムシャラに一生懸命取り組んでください。それが第一歩です。その後課題や問題が出てきたら、改善する覚悟を決め、自信を持って取り組んでください。そうすることによって、自分の居場所を見つけることができますし、確実にステップアップしていけると信じています。

介護職をめざす高校生へのメッセージ

 

自分を変えられるのは、自分しかいない

「物事が思い通りに運ばないのは、すべて自分に原因がある」ぐらいに考えて、改善する方法を真剣に考えてみましょう。時には周りにいる先輩に相談するのも大切です。逃げずに取り組めば、必ず変化が起こります。自分を変えられるのは、自分自身しかいないのです。

通一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会
代表理事
荒川 弘也さん

 

兵庫県神戸市出身。グラフィックやWEBデザインを制作する、アルファクリエイト株式会社の代表取締役。祖母の介護をきっかけに介護の世界に関心を抱き、多くのレクリエーションツールを開発。2014年に一般社団法人日本アクティブコミュニティ協会設立、代表理事就任。レクリエーションの力で介護の世界に元気を発信中。