レーシングエンジニア東條力さんが語る『仕事の上で大切なこと』
レーシングエンジニアの判断がレース結果を左右する
レースエンジニアの仕事は「決めること」
―現在のお仕事について教えてください。
私は現在、TOM’Sが参戦しているレースのうちSUPER FORMULAとSUPER GTの2つでチーフエンジニアを務めています。
レースエンジニアという仕事はとにかくやることが多くて、何をやっているかと聞かれると説明が難しいのですが、あえて言うなら、私の仕事は「決めること」だと思っています。
ドライバーにどんな指示を送るか、天候に合わせたタイヤをどのタイミングで変えるか、少しの判断の違いでレースの結果に大きな差が出てしまいます。
決めなければならないのはレースで実際にマシンが走っているときだけではありません。レースの戦略を立てる、メーカーとやり取りをして部品を発注する、テストの結果を分析して改良する……。あらゆる局面でエンジニアの決定が重要になってきます。
―責任の大きい仕事かと思いますが、お仕事の上でどんなことを大切にしていますか?
勉強することです。なぜなら、エンジニアとして正確な判断を下すためにはあらゆる知識を身につけることが欠かせないからです。
この仕事に就く前は10年近くディーラーの整備士をしていたのですが、メーカーの整備士とレースエンジニアでは全くと言っていいほど仕事が違います。ディーラーでは、すでに後任の教育を任されるくらいの立場にいたのですが、TOM’Sに入社するなりたった2ヶ月でエンジニアに抜擢され、右も左も分からないような状態になってしまいました。そんな中で自分なりにレースに関わる空力や熱力、材料の知識、それから部品を設計するためのCADの技術も必死で身につけていきました。どんなことも学んでいく姿勢が重要だと思います。
学校で学んだことは無駄にならない
―子どものころからレース業界を目指されていたのですか?
実はそういうわけでもないんです(笑)。高校生になると周りもバイクの免許を取り出して、私もバイクに乗りはじめて、それで、バイクや自動車に興味を持つようになり……という感じです。高校を卒業した後は専門学校で自動車整備の勉強をしました。
―専門学校で学んだことで現在役に立っていることはありますか?
学校で学ぶだけですぐに働けるかというと、そういうわけでもないと思います。ディーラーで働いていた頃は、実習でやったことが通用しない、ということを何回も経験してきました。ただ、だからといってすべてが無駄になるわけではないと思います。特に、レースエンジニアをしている今は、むしろ学生時代の経験が役に立っていると思います。
当時は実習が終わると毎日、日報を付けていました。私が学生のころはCADもデジカメもない時代だったので、毎日手書きでその日の実習を思い出しながら書いていました。良くなったところ、わからなかったところを書き出して次の実習に活かします。
これは、レーステストのレポートを作るときと似ていると思います。良かったところ、悪かったところを記録し、分析することでレースに勝てるようになるんです。
ですから、高校生の皆さんには学校で学ぶことを無駄だと思わないで頑張って欲しいですね。
株式会社トムス
レーシングエンジニア
東條 力さん
自動車整備の専門学校を卒業後、ディーラーの整備士として約10年勤務。その後、株式会社トムスへ入社2ヶ月でレーシングエンジニアに抜擢される。現在ではSUPER FORMULAとSUPER GTでチーフエンジニアを務める。