幼い頃からの夢を叶えた黒澤勇樹さんの仕事とは
安全、安定輸送の確保を肝に銘じて職務に従事しています
子どもの頃から親しんだSLの機関士に
―現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
私は秩父鉄道株式会社で、電車、電気機関車、蒸気機関車のそれぞれで運転士や車掌の乗務を担当しています。
当社では鉄道事業、不動産事業、観光事業を行っていますが、その中で特徴的なのは蒸気機関車による観光列車「パレオエクスプレス」の運行です。ほかにも秩父本線やセメントの原料となる石灰石を輸送する貨物列車も運行しており、日々、通勤・通学・観光とさまざまなお客様にご利用いただいています。
―蒸気機関車でのお仕事内容を教えてください。
蒸気機関車の乗務では運転機器を操作する「機関士」と、カマに石炭をくべ水を沸かして蒸気を作る「機関助士」の双方を担当しています。また、蒸気機関車は鉄の伸び縮みを最小限にするため、可能な限りカマの火を絶やさないようにしています。ですから、運行日以外には、「保火(ホカ)」というボイラーの管理をする作業も行っています。
―なぜこのお仕事を選ばれたのですか?
もともと、両親の実家が、パレオエクスプレスが通る秩父と寄居にあったので、幼いころから田舎へ帰るたびに蒸気機関車を見られるという環境で育ちました。
パレオエクスプレスは1988年に運行を開始しましたが、1986年生まれの私にとって、ちょうど物心がつきはじめた頃に走り始めた蒸気機関車のインパクトは強烈だったようで、小学校の時の作文にはすでに「将来の夢はSLの機関士」と書いていましたね。
高校は東京の昭和鉄道高校へ進学しました。就職を考えていた頃、秩父鉄道の会社説明会でSL乗務員の自社養成を検討していると伺いました。当時はまだJRのOBの方々がSLの機関士を担当していて、新卒の機関士の養成は行っていなかったのです。それを聞き、幼い頃からのSL機関士の夢が叶うと思い秩父鉄道を受験しました。
「また乗りたい」という思いをお土産にしてほしい
―お仕事のなかで心がけていることなどありますか?
鉄道員として常に安全、安定輸送の確保を肝に銘じて職務に従事しています。その上で運転士として多種多様な車両をしっかりと乗りこなし「乗務中、異常ありませんでした」と終業の点呼を受ける時が嬉しくもありホッとするときですね。
SL列車の仕業を担当する際は可能な限り記念撮影やご質問にお応えすることを心がけています。SLのお客様は観光目的ですから、休日のお出かけで当社のSL列車へご乗車になられたからには、また来たい、また乗りたいという思いをお土産にお持ち帰りいただけますように、素敵な乗車時間をお届けすべく工夫を凝らしております。
―今後の目標はありますか?
将来は後輩の指導、教育に携わりたいと考えています。格好つけた言い方をするならば後進の育成ですね(笑)。生涯一運転士と考えていた時期もありました。しかし自分自身が知識、技能を向上させ、さまざまな経験を積み重ねた上で、次を担う世代へしっかりとバトンを託し、さらにその次の世代へとバトンが託されていく……その流れをより大きなものとすることに、微力ながら貢献したいと考えるようになりました。
私を育ててくださった先輩方への御恩返しは、私が後輩をしっかりと育てることなのだと信じています。
秩父鉄道株式会社
列車区
黒澤 勇樹さん
埼玉県出身。昭和鉄道高等学校を卒業後、2005年に秩父鉄道株式会社へ入社。列車区で電車、電気機関車、蒸気機関車の運転士・車掌乗務を担当。